アパレル市場はシニアに注目!若者文化をリードした60・70代の心をつかめ
ファストファッションの登場とコロナ禍で厳しい競争にさらされるアパレル市場。
価格競争にさらされる若者向けのアパレル市場は、ファストファッションとの消耗戦にさらされます。
少子化で縮小が予想される若者向けと比べ、増加が見込まれるのがシニア向けのアパレル市場。
飽和状態に近い若者向けと違い、シニア向けのアパレル市場はまだまだ開拓の余地が残っている分野でもあります。
今どきの60代・70代は、年齢を重ねてもファッションを楽しむ枯れないシニア。
かつて若者文化をリードしたシニアのセンスを満たす商品の開発は、アパレル市場の救世主になる可能性を秘めています。
目次
- 第二の青春を楽しむシニアとアパレル市場の将来性
- シニアのアパレル選び3つのチェックポイント
- なぜシニアにウケる?アパレルブランド5つの事例
- シニア・アパレル着こなしのお手本は「インスタグランマ」
- まとめ
1. 第二の青春を楽しむシニアとアパレル市場の将来性
コロナによる行動制限が緩和された2022年家計収支報告書によると、消費支出の伸び率が高かったのは50代以上の世帯。 なかでもアパレルの消費が見込まれる層は、60代から70代前半のアクティブシニアと呼ばれる人々。60代から70代前半のシニアは、住宅ローンや教育費の負担から解放され、まだ元気な人が多いため、自分にお金をかけられる年代です。
特にこの年代のシニアは、anan・nonnnoの創刊やDCブランドブームなど、流行をけん引した世代にも当たります。
そのため、従来型の「地味なお年寄り」というより、ファッションにこだわりのある「アクティブなシニア」というのが彼らのリアルな姿でしょう。
また、新型コロナ流行で外出を控えていた人も、元気なシニアを含め再び旅行やレジャーを楽しむ人々が見られるようになりました。
コロナによる行動制限が緩和された2022年の家計調査では、旅行・レジャー消費の増加にけん引される形でアパレルや美容の消費も少しずつ回復しているようです。
参考:内閣府 家計調査報告(家計収支編)2022年(令和4年)平均結果の概要 家計調査報告2021年(令和2年)年齢階級別に見た暮らしの特徴
シニアの健康に関わるアパレル市場
内閣府の調査によれば「ある程度」を含めると全体の7割近くが「おしゃれをしたい」と回答。
健康な人ほどおしゃれに対する関心が高く、健康状態が低下すると関心も薄れる傾向が見られました。
シニアのおしゃれは健康や幸福のバロメーターでもあり、アパレル業界も彼らの生きがいを担う産業の一つとも言えるでしょう。
さらに、経済的に余裕があるシニアほどおしゃれに関心が高く、消費も活発な人が多いようです。
アクティブシニアと呼ばれるこれらの層の取り込みは、生き残りをかけたアパレル市場においても欠かせない戦略となっています。
参考:内閣府 令和3年度 高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査結果
かつてのアンノン族も今やシニアの仲間入り
若者文化をリードしたファッション誌anan・nonnnoも、今や創刊から50年を超えました。創刊当時の読者は、現在60代から70代前半のシニアと呼ばれる年齢を迎えています。
子育てや仕事が一段落した元・アンノン族世代のシニアは、再びファッションを楽しむ余裕を手にした人も多いはずです。加えて、この年代のシニアを想定したアパレルは、価格競争にさらされ飽和状態に近い若者向けと比べ、開拓の余地がある市場ともいえます。
とはいえ、いかにも「お年寄り」といったイメージの商品は、元・アンノン族のシニアには受け入れられません。従来のお年寄り向けアパレルとは異なる商品やサービスの提供が、シニアの新たな需要の掘り起こしには必要です。
参考:宝島社 60代以上向けファッションムック『素敵なあの人』を月刊化 神下敬子編集長に聞く
シニアのライフスタイルの変化とアパレルの関係
元アンノン族の中には仕事や子育てに追われた生活を卒業し、生活のサイクルが変わった人も多いでしょう。このようなシニアのライフスタイルの変化は、アパレルの購入にも影響を与えます。
現役世代のアパレル購入は、仕事や役割に合わせた装いのため。一方、シニアのアパレル購入は、旅行や健康のために始めたスポーツなどがきっかけになります。
参考:総務省 家計調査報告(家計収支編)2022年(令和4年)平均結果の概要
2. シニアがアパレル選びでチェックする3つの項目
おしゃれを楽しみたい気持ちと加齢による衰えの間でゆれるのが、シニアのアパレル事情。ファッションにこだわりのあるシニアに選ばれるアパレルは、次の3つの特徴が見られます。
- 体型変化に合わせたサイズ展開
- 年齢に合わせたほどよいトレンド感
- シニアのニーズに応える機能性
シニアの悩みをカバーしつつ、ほどよいトレンド感を備えたベーシックなアパレルが好まれているようです。
シニアがアパレル選びで悩むサイズとフィット感
実年齢より老けて見られたくないものの、シニアが若者向けのアパレルを着てもしっくりこないケースがあります。
シニア向けのアパレルは、体形の変化に合わせたサイズ展開やシルエットの調整が必要です。インナーやTシャツはファストファッションで済ませても、体型が出るジーンズなどのアパレルは値段よりフィット感を重視するシニアは少なくないはずです。
参考:ビジネスジャーナル 元アンノン族の60~70代シニア向けアパレル、業界の常識崩れる…無限の可能性 ハルメクホールディングス「40~80代女性のファッション・美容に対する意識実態調査」
シニアに寄りすぎないベーシックなデザインが好まれる
近年、アパレルにおいて「エイジレス」と呼ばれるキーワードが注目を集めています。
年齢や性別に囚われず「私らしく」ファッションを楽しみたいという、多様性を認める動きがアパレル市場にも浸透しているのでしょう。
かつて若者文化をリードしたシニアも、年齢を問わず着こなせるアパレルを求めています。ベタなシニア向けアパレルより、エイジレスでベーシックなデザインが好まれるはずです。
参考:Yahoo!ニュース 100歳でもおしゃれに着こなす ファッションは「エイジレス」がキーワード Herpars BAZAAR エイジレスな女性たちに学ぶ、スタイリッシュなコーディネートの秘訣
デザイン性とシニアの悩みに答える機能の両立がカギ
若々しくおしゃれなシニアも、年齢に応じた密かな悩みはあるものです。
- 加齢による尿もれ
- 汗や体臭の問題
など、人知れず悩んでいるシニアは少なくありません。
シニアのファッションに関する調査でも、「清潔感を重視する」と答えた人は多く見られます。
介護服とは一線を画すデザインと年齢による悩みを解消する機能、どちらも両立したアパレル商品をシニアは求めているようです。
参考:株式会社ジェイアール東日本企画 男性シニアのファッション市場にチャンスあり! -jekiシニアマーケティングレポート2019- @Press シニアのおしゃれ意識に関する調査
3. なぜシニアにウケる?アパレルブランド5つの事例
シニアに人気のアパレルブランドには、2種類の傾向に分かれます。
- シニアのニーズに特化したアパレルブランド
- 年齢を問わないベーシックな商品が主力のブランド
また、1と2どちらのブランドにも見られる共通点は、デジタル技術を集客に活かすビジネス戦略。
シニアを含めネットショッピングの広がりを見据えた戦略が、アパレル企業の業績を左右しているようです。
シニアのニーズに特化したアパレルブランド
人生経験の豊富なシニアは、アパレルを見る目も肥えています。
以下のブランドは、安さよりシニアのニーズに特化したアパレルで支持を得たパターン。
- アダストリア:UTAO(ウタオ)
- 伊勢丹三越:MAISON DE WOMAN(メゾン ド ウーマン)
Tシャツやインナーはファストファッションで済ませる人も、シルエットが気になるパンツなどは安さだけでは選びません。
付加価値を重視した商品展開でシニアの顧客を取り込み、価格競争から距離を置く戦略を取っています。
加えて、早くからデジタル技術を集客に取り入れる点も、アダストリアと伊勢丹三越に共通してみられる特徴です。
ECサイトで売上を伸ばしたアダストリア
デジタル活用の浸透は、アパレル企業の業績を左右していると言われています。
早くからECサイトに力を入れたアダストリアは、コロナ禍で苦戦を強いられるアパレル業界の中では比較的業績が安定している企業です。一方、コロナ禍の大型倒産で注目を集めたレナウンは、実店舗販売が中心でデジタル化が遅れた点も原因の一つではないかと言われています。
参考:UTAO公式HP
データを活用して顧客を囲い込む伊勢丹三越
地方の百貨店が続々と閉店に追い込まれる中で、伊勢丹三越の売上は好調です。
好調の業績を支えるのは、外商の改革とデジタルデータの活用。
バイヤーや外商が足で稼いだ知見に加えてAIを活用した営業で、ターゲットのニーズを的確に捉えたことが顧客の囲い込みに成功しています。
リアルとデジタルを連動した集客は、アパレル市場でも必須の営業スタイルではないかと考えられます。
参考:伊勢丹三越オンライン MAISON DO WOMAN(メゾン・ド・ウーマン)
東洋経済新報社 激変するアパレル市場の「主役」 終わりを迎えた百貨店との蜜月 絶好調の「伊勢丹新宿店」を支える顧客たちの正体
ベーシックな定番アパレルが主力のブランド
年齢を問わず着られるアパレルを選ぶのが今どきシニアのスタイル。
- New Balance(ニューバランス)
- UNIQLO(ユニクロ)
年齢を問わず着られるデザインのアパレルが充実しているこれらのブランドは、シニアにも支持されています。
シニアがニューバランスの靴を買う理由
60代・70代のシニアからは、服はコスパ重視でも靴は履き心地重視という意見も聞かれます。
年齢を感じつつ旅行やレジャーを楽しむ人が多い点が理由として考えられます。
クッション性やサポート性に優れた靴づくりに強みを持つニューバランスは、若者だけでなくシニアの愛用者も少なくありません。若いころから親しんだブランドを愛用し続けるシニアも多いようです。
シニアも若者も支持するユニクロの商品
シニアのみならず若者にも人気のユニクロの「吸水ショーツ」。若者の悩みにもシニアの尿もれの悩みにも対応できるため、幅広い年代から支持されているようです。
新たなアパレル市場の可能性の一つに、フェムテックと言われるジャンルがあります。
年齢に応じた女性の悩みに応えるもので、見過ごされてきたニーズもあるはずです。人口が多いシニアの女性に寄り添う商品の開発は、アパレル市場の中でも商機を感じる分野でしょう。
4. シニア・アパレル着こなしのお手本は「インスタグランマ」
若者のものと見られていたSNSも、ここ数年シニアの利用者が増え続けています。
ついに、ファッションに敏感なシニアのインフルエンサー「インスタグランマ」と呼ばれる人々も出現。自分の年齢に近い彼女たちの着こなしはシニアの共感を呼び、真似したいと思わせるカッコよさです。
「インスタグラマー=若者」というイメージは、もはや過去のものでしょう。
時代に乗り遅れたアパレル企業は、大手でも倒産のリスクはあるはずです。シニア向けのアパレルでもSNSを活用した集客は、待ったなしの手法となっています。
参考:ELLE 時代は“インスタグランマ”! 人生のお手本にしたいシニアファッショニスタ 宝島社 60代以上の人気“#インスタグランマ”たち|始めたキッカケは .. 読売新聞社 「インスタグランマ」の生き方に共感、何歳でもおしゃれ
効果的なシニアマーケティングのポイントを解説した、こちらの記事もぜひお読みください。
5. まとめ
高齢化で拡大が予想されるシニアの市場は、アパレル業界の売上を支える一角になるはずです。
また、60代から70代にさしかかるシニアは、かつて流行をリードしたアンノン族と呼ばれた人々。
彼らが好むアパレルは、シニアに寄りすぎないほどよいトレンド感のベーシックなデザインです。
今どきのシニアは、悩みに答える機能とデザイン性の両方を求める目利きでもあります。
加えて、インターネットの利用がシニア層に広がりを見せる点も注目すべき変化です。
シニア向けのアパレルにおいても、プロモーションにデジタルの活用は欠かせないものとなっています。
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