待てないお年寄り、自分の思いをぶつけるのはなぜ? 〜気持ちよくかかわっていくために
この前、郵便局である光景を目にした。
70代くらいの女性だろうか、郵便局の局員さんに何やら詰め寄っている。
私はそこで悪いな、と思いつつ、少し聞き耳をたてて聞いてみると、状況が読めてきた。
自分の思いを抑えられない女性
- 女性は、順番待ちをしていた。けれど、前の利用者の処理がまだ終わっていないらしい。
- 前の利用者は待つ時間が長くなるということで一旦外に出た。よってその場にはいない。
- 女性は、前の利用者がいないのに待たなければならないことに不満。前の利用者がいないのならば自分を優先して欲しい。
- 局員さんは、順番に処理を進めたいので女性に丁寧に説明していた。が納得してくれなくて困っている。
ざっとこのような状況だった。
時間がなく急ぎたい理由があるならまだしも、そうではなさそう。
「だって前の方いないんでしょ!?」
「それなら先やってくれたらいいじゃない」
とどんどん詰め寄る女性。
見ていて、確かにそう思ったとしても、そんなに怒んなくてもいいじゃないか、と思ってしまった。もっとやんわりとした伝え方があるだろう。
というか、そもそも少なくとも私なら待つ。だって郵便局内でのルールがあるのかもしれないし、前の利用者が戻ってきたら局員さんが大変になるのも目に見えているじゃないか。
他にも、カフェや公共施設で似たような状況を何度か目撃したことがある。
ただ、この怒りには様々な背景があり、一概に責められるものでもないとも思っている。
自分の感情を抑えられないのはその人のせいとも限らない
一見、この女性だけが悪いようにも取られがちだが、その人のせいとも限らないのだ。
認知症で、怒りっぽくなるというのは大半の人に現れる症状。また、老化によって感情の抑制をする前頭葉の働きが悪くなり、感情抑制ができなくなるのである。ホルモンバランスの変化も大きな理由のよう。しかも、本人は怒りっぽくなっていることに気づいていないことが多いらしい。
参考:【認知症の原因とは?】症状と主な原因をしっかり理解しよう |ベネッセスタイルケア
だから、この女性だけを攻めるのはお門違いというもので、今後少子高齢化が進むことを考えると、こういった背景を若者も理解しておく必要があると思う。
マニュアル接客の弊害
今の老年の方々は、商店街や個人店で買い物をしてきた世代。
「お客様は神様」という言葉があるように、お金を払えばいいサービスが受けられる、という感覚がある方もいるはず。また、個人店なら「1個おまけ」など、臨機応変なサービスも受けているかもしれない。
だからそもそも「マニュアル接客」との親和性は高くないとも言える。
ただ、郵便局も民営化し、シャッター街も増え、チェーン店ばかりが増える中で、お店のスタッフ側としても臨機応変な接客ができなくなっている現状がある。これには、何事にも一定のルールがないと、非正規雇用がしにくい、平等な接客ができない、新人教育がしにくいなど、様々な事情があると思う。
参考:接客マニュアルを作ろう | 三越伊勢丹ヒューマンソリューションズ
お年寄りのごく一部の方は、そういった背景を知るはずもなく、従来のような接客を求めてしまう、ということがありそうだ。
サービスを提供する側と受ける側の歩み寄り
こういった軋轢を減らして、サービスを提供する側と受ける側が歩み寄って、気持ちよく過ごせるのが理想ではないだろうか。
それを実現するために、いくつか提案をしてみようと思う。
怒りを受け入れる
認知症で怒りを抑えられない方の大半は、自分が怒っていることに気づいていない。ということで、サービスを提供する側が受け入れていくという対応は必要だと思う。
受け入れるといってもなんでもはいはい、と言いなりになるということではない。
クレーマー対応でもよく言われることではあるが、まずは「利用者の言い分を聞く」。
途中で訂正や説得を挟むと「聞いてくれなかった」という不信感につながる。否定はせず、「確かにそうかもしれませんね」など一旦受け止めることで落ち着く方もいるようだ。
話を聞いてもらえる人がいなくて、思いをぶつけてくるタイプの方もいるので、「言い分を聞く」は重要な姿勢だと思う。
利用者は怒っていること自体を認識していないのだから、怒りの原因について追求するのも混乱を招きかねない。追求するのは避けた方が良いかもしれない。
参考:いっしょがいいね.com|第一三共株式会社,第52回 認知症の人の対応 ~怒りっぽい~|認知症ネット
マニュアル接客+臨機応変に動ける余白を設けておく
ガチガチのマニュアル接客は確かに効率的なんですけど、これで対応できない事態というのも働いていると発生する。その時にうろたえてしまうと、お客様もサービスを提供する側も混乱して事態を納めることができなくなったり、大事になりかねない。
マニュアル接客もしつつ、気遣いの気持ち、思いやりの気持ちで臨機対応に対応できる環境を作るのが大事だと思う。
例えば、お客様が「〇〇してほしいんだけど」と無理なお願いをしてきたとする。
その時に、「それはできません」と答えるのか、「〇〇がしたいのですね。そちらは難しいのですが……」「こういった理由で難しいので、代わりに◻️◻︎という方法はどうですか?」と答えるのか。否定から入るのではなく、気遣いの気持ちが伝わるような言い回しがあるのではないかと思うのだがどうだろうか。
あとは、上司がその対応を責めないのも重要だ。臨機応変に対応をしてそれを注意されたら、せっかく利用者にとっては納得できる対応だとしても、今後は思考停止してマニュアルに従うだけになってしまう危惧もある。
気持ちよくサービスを利用するために
今回は、サービスを受ける側、サービスを提供する側、両方の立場で、お互いが気持ちよくかかる方法を考えてみた。大前提として1番大切なのは、相互理解だと思う。相手の怒りだけでなく、その背景はなんなのか。それを知ることで、気遣いや思いやりを形にしていくことができるのではないだろうか。