【取材企画】ビーズでつながる未来へ:トーホー株式会社が切り拓くコミュニティマーケティングの新潮流
トーホー株式会社は、ビーズを中心としたハンドメイドビジネスを展開しており、顧客とのエンゲージメントを強化するために、コミュニティマーケティングに注力しています。
特に、日本シードビーズ協会を通じてリアルなコミュニティ活動を推進しながら、オンライン授業の導入やSNS活用など、デジタル時代に対応したマーケティング戦略を展開しています。
そこで、トーホー株式会社の山仲氏にインタビューを行い、同社のコミュニティ運営やハンドメイド市場における戦略について詳しくお話を伺いました。
目次
- 日本シードビーズ協会の取り組み
- ハンドメイド市場の変遷と戦略
- SNSの活用とコミュニティ運営
- シニア・若年層へのアプローチ
- コミュニティマーケティングについて
- コミュニティの力と広げるツールとして
- 多様性のある社会へ
- 次世代、国際社会に向けて
🎤 御社が展開する会員専用コミュニティやマーケティング活動、ハンドメイド市場のその動向に沿った事業戦略などを具体的にお聞かせください
1.日本シードビーズ協会の取り組み
トーホー株式会社は、会員制コミュニティ「日本シードビーズ協会」を運営しています。
この協会は「ビーズの学校」とも言えるものであり、ビーズ刺繍やビーズアクセサリーの作り方を学ぶ講座を提供しています。受講者は認定資格を取得し、インストラクターとしてビーズ教室を開いたり、クリエイターとして活動したりすることができます。協会は、会員にとって新しいスキルを学びつつコミュニティとの交流を深める場として機能しています。
コロナ禍前の活動は実際の教室や会場でリアルに実施することが多かったのですが、コロナ禍により、授業やイベントのオンライン化にも力を入れるようになりました。オンライン授業を導入する際、会員のなかにはオンライン授業の参加方法がわからないなどの不安があり苦労されているケースも多かったのですが、1、2年じっくり時間をかけて具体的なサポートを行いました。現在では、オンラインとオフラインの両方で学ぶ選択肢があり、それぞれのライフスタイルに合わせた学習が可能となっています。
2.ハンドメイド市場の変遷と戦略
ハンドメイド市場は時代とともに変化を遂げており、弊社もその動向に対応してきました。
昭和の時代は、お花や着付けと同様に手芸が花嫁修行の一環として広く行われていましたが、平成以降は、ビーズ刺繍など手芸を趣味として楽しむ方が増えてきました。ビーズアクセサリーについては、2001年に皇后 雅子様がビーズネックレスを着用された姿が女性雑誌に掲載され、一大ブームになりビーズ教室が一気に増えました。
その時代の流れに沿って、趣味として楽しんでいただけるようパーツの販売だけではなくビーズの美しさを広めるため完成品を自社ブランドとして展開し、新しい顧客層の開拓も図ってきました。
ハンドメイドの時代の流れとして、昔は「手編みのセーター、買うより自分で作る方が安かった」ため自作される方も多かったと思います。またビーズ装飾が施されたものもそこまで広く扱われていなかった時代もありました。しかし今は、完成品や手芸キットをパッケージしたものを店頭で紹介することで、カジュアルに扱うことができるものとして浸透させることができたと考えています。
その結果、手芸の楽しさを再発見したり、子供や孫と一緒に楽しむシニアも増えています。シニアは子供の時やっていたものが、自分のお子さん、お孫さんに引き継がれていくみたいな感覚もあるようです。
🎤 現存ユーザーの活性化、新規ユーザー獲得を目的としたコミュニティマーケティングの実例などがあればお聞かせください
3.SNSの活用とコミュニティ運営
現在、弊社ではSNSを活用したマーケティング戦略を展開しており、社員全員が自由に情報を発信できます。宗教や政治以外の内容であれば、何でも発信してもいいですよと伝えています。一人ひとりが自分の企画や計画を達成するためにSNSを活用しています。
また、いわゆる「フォロワー」となるお客さまもSNSを活用して情報発信されていますが、SNSの使い方や写真の撮り方など不安がある方も多いです。そのような方へのフォローも実施しています。具体的には、ビーズ作家さんの講習会にプロのカメラマンを招いて、ビーズ講習と併せて作品の綺麗な撮り方を伝授したり、ノウハウを勉強したりしていただいています。
4.シニア・若年層へのアプローチ
令和3年社会生活基本調査(年代別)によると、編み物・手芸を趣味として楽しむ年代は70-74歳で100万人を超えています。
どの程度の年齢をシニアと見なすべきか明確ではありませんが、ハンドメイド市場では非常に元気なシニアが多いと考えています。そのため、こうした方々にSNSの活用などデジタルツールの利用方法を伝え、未来の展望を示すことも重要と考えています。
SNSの利用に関しては、良い写真を投稿することやショート動画などはシニア層でも十分に取り組むことができ、意欲的な方々はこうしたプラットフォームを活用していると感じています。
例えば、日本シードビーズ協会で講師として認定を取得し実績を重ねた方がいるとします。その方へ、SNSでフォロワーを増やし、教室に顧客を呼び込み、または完成品を販売する際にファンを獲得することが売上向上に繋がると伝えれば、非常に意欲的に取り組んでいただけると思います。ただし、一方で、あまりにも急速に様々なことを進めすぎると、ついていけない可能性もあると考えています。例えば、コロナ禍で展示会に来られない方々に楽しんでいただくために、メタバースの制作やライブ配信などを模索したこともあります。しかしメタバースの利用には高性能パソコンが必要なため、高性能パソコンを持っていない方の参加が難しいなどの問題がありました。
一方、若い世代については、最近週休三日制を試行している企業もいて、趣味を活かした副業やクリエイティブな活動をする方も増えてきていると感じています。例えば、minne(ライフスタイルに合わせたこだわりの作品を購入・販売できる国内最大級のハンドメイドマーケット)などを利用して商品を販売している人たちも見受けられます。若い世代でデザインや販売に興味がある方々にとっては、こうしたプラットフォームを活用することが、余暇時間を有効に使いながらビジネスにも繋げられるため、非常に適していると思います。
5.コミュニティマーケティングについて
昔は近所の人々が皆知り合いで、寄り合いなどのコミュニティが自然に形成されていましたが、現代ではそのような繋がりが希薄になっています。私自身も47歳であり、子供たちも含めて、今の若い世代は近所に誰が住んでいるのかを知る機会もありません。
SNSやアプリを活用してコミュニティを形成していくマーケティングは、場所や時間に関係なくオンラインで実施ができます。「今」の時代には、このようなマーケティングや、ユーザーのコミュニティから派生するビジネスを展開する方がフィットするのかもしれません。
6.コミュニティの力と広げるツールとして
弊社が重要視しているのはユーザーの意見を活かすことです。ユーザーは意見の宝庫です。例えば、穴の大きなビーズを作る提案もユーザーの意見から生まれました。老眼の問題に対応するためのビーズを作ることができた(笑)のも、ユーザーの意見があったからです。ビーズの色に関しても、ユーザーからの意見を元に製作しています。
弊社は、ビーズの先生方やビーズに興味をお持ちの方々と繋がることができるコミュニティを持ちたいと考え、日本シードビーズ協会(ビーズの学校)を設立しました。ビーズの先生方とコンテンツを共同で作成し、学び手が教える立場になれるような仕組みを取り入れています。コロナ渦でビーズの先生方は大きな影響を受けました。手芸教室やビーズ教室は基本的にリアルで行われており、集まることができないため多くの教室が活動を停止に追い込まれ困難な状況にありました。一部ではマスク制作などが行われ、ミシンの需要が急増したりしましたが、ビーズの先生方や手芸を教えている方々には非常に厳しい時期であったと思われます。
そのため先生方を中心としたコミュニティを維持するために、オンラインメディアとして「ビーズラジオ」※YouTube を始めることにしました。一人ひとりの先生方の情報を発信し共有しています。現在約3,000名の方々がこのコミュニティに集まっています。コロナ禍での危機を打破するために生まれたデジタルツールでさらに強い絆が築けたと考えています。
デジタルでは、その他AIを利用して自動で絵や写真を生成する技術も取り入れています。例えば、今年立ち上げた完成品の「アクリルガールズ」というブランドは、モデルのルック撮影を行わずに、AIを使っています。例えば、西海岸の背景にアジア系のファッションモデルがいるような画像を生成し、その画像にアクセサリーを付けるという方法を試しています。現在、さまざまな場所で販売を開始しています。
これらの取り組みは、私の新しいもの好きな一面もありますが、時代に合わせた進化を行っている思っています。弊社は祖父によって創業され、その言葉の中に「時代の流れに添え」という教えがあります。それに従って、現在も進んでいるのです。
🎤 「時代の流れに添え」、創業からの教えを継承しているなか、今後の事業展開、ハンドメイド市場での展望などをお聞かせください
孤独や孤立が社会問題となっているなかでコミュニティを軸としたハンドメイド事業、ビーズ製作を通して、オンライン・オフライン両方で人々がつながる機会を提供していくことを目指しています。
弊社のブランドメッセージは、「Connecting people」です。ビーズを「人と人をつなぐツール」として位置づけています。
7.多様性のある社会へ
弊社の新しい取り組みとして、B型就労支援事業所(障害や難病のある方の就労支援施設)様との連携が始まっています。就労支援事業所では、以前は値札を付けたり商店の手伝いをしたりすることがあっても、実際にアクセサリーを制作し売る機会というのはなかなかありませんでした。本取り組みでは、実際にアクセサリーを制作していただいています。自分が作ったものが売れると喜びを感じられます。大袈裟な話ではなく、現代では人との繋がりがうまく持てなかったり、コミュニケーションが取りづらかったりして、心理的なストレスを感じ社会に戻りにくくなっている方々もいらっしゃいます。そういった方々も含めて、ビーズという媒体を通じて、仕事の喜びを感じていただけたらと考えています。これは新しい領域かもしれませんが、私たちとしては非常に取り組んでいきたい分野です。
8.次世代、国際社会に向けて
その他、子供たちに向けて、手作りやハンドメイド、クリエイティブな活動に対する興味がどれほど広がるかを試す企画として「子ども なつまなび」を実施しています。ビーズを楽しみながら学んだことが、大人になった時にビーズに再度取り組むきっかけになることを期待しています。
また現在、弊社製品の90%以上が海外向け販売です。日本のビーズの品質は、高品質で「ビーズ界のロールスロイス」と評されるほどの評価を得ており、色の安定性や形の美しさが特徴となっています。
そのため世界中の作家や代理店とのネットワークを構築しています。彼らと一緒に平和への取り組みとして「ピースリングプロジェクト」を通じて世界平和の促進にも努めています。「ピースリングプロジェクト」では、SNSを活用した寄付活動も展開し、国際的な問題があってもビーズ製作を通じて人々がつながる機会をつくっていきたいと考えています。
これらの取り組みは、単なる商品販売を超えて、社会的な価値を創造しようとする試みだと考えています。
ビーズという小さなアイテムを通じて、世界中の人々をつなぎ、世界平和や障がい者の方々への理解を促進するというビジョンは、今日のグローバル社会において非常に意義深いものだと思っています。
※TOHO BEADSの情報
https://linktr.ee/TOHOBEADS
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