【取材企画】シニアをターゲットにしたヘルステックの可能性:イムノセンスの技術とビジョン
日本のヘルステック関連市場は、テクノロジーの進化とともに重要な拡大期を迎えています。具体的には、AIやIoTを活用した健康管理デバイス、リモートモニタリングシステム、そして高齢者専用のスマートフォンアプリなどが注目されています。
市場調査によると、ウェアラブル/ヘルスケア機器、サービス・システムの国内市場は2025年には年間一兆円以上の規模に達すると予測されており、特に在宅医療や予防医療のニーズが高まっています。
参照:株式会社富士キメラ総研
そして、政府の高齢者福祉政策や、デジタル化の進展もこの成長を後押ししており、高齢化社会の到来とともに、シニア層の健康管理はますます重要な課題となっています。そんな中、最先端のヘルステック企業、株式会社イムノセンスが注目を集めています。今回は、株式会社イムノセンス代表の杉原様にインタビューを行い、同社の技術とビジョンなどについて詳しく伺いました。
本記事では、これらのトレンドと日本の市場における将来の展望について、専門家の見解を交えて詳しく掘り下げていきます。
株式会社イムノセンス(IMMUNOSENS CO., LTD.)
「いつでも・だれでも・どこでも医療グレードの迅速検査」を
代表:杉原 宏和 様
【経 歴】
1985年 大阪大学基礎工学部生物工学科 工学士
2000年 McGill大学経営大学院 経営学修士
1985年 松下電器産業㈱(現 パナソニック)入社
2000年 同社 先端技術研究所 ジェネラルマネージャー
2012年 パナソニックヘルスケア(株)(現 PHC)インキュベーションセンター 副センター長
2015年 東レ(株) ライフイノベーション事業戦略推進室 主幹
2020年 (株)イムノセンス 入社
目次
- 事業ビジョンとミッション
- シニアの医療課題とは
- 独自技術GLEIA®︎の役割
- POCT(point of care testing)の重要性
- 医療アクセスの向上
- 社会課題解決への貢献
- イノベーションと未来展望
- 利用者の声とフィードバック
- 競争優位性
- 持続的な成長と展開
1.事業ビジョンとミッション
🎤 事業ビジョン、ミッションについてお聞かせください
杉原代表:
イムノセンスは、2018年1月に大阪大学発のスタートアップベンチャーとして設立されました。大阪大学で開発された技術を用いて社会の役に立つ製品を世の中に出していくことが大きなミッションです。
我々は、独自の免疫測定、新型コロナ感染症の抗原検査などでも使われているイムノクロマト法(免疫測定)の進化版GLEIA®︎(グライア)と呼ばれる技術、これを用いた新たな診断機器を世の中に出していくというのがビジョンでありミッションとなります。
🎤 「いつでも・だれでも・どこでも医療グレードの迅速検査」を目指す背景にはどのような思いがありますか?
杉原代表:
GLEIA®︎技術を活用して、本当に小型で手のひらに乗るぐらいの大きさの測定器を実現していきます。病院や研究所にあるような超大型のもの、机一つぐらいあるような検査機器並みのシステムが、誰でも簡単に利用できるようになります。
これを世の中の方々にお使いいただく。健康の維持増進、あるいは病気の早期発見や早期治療、こういったものに活用していただきたいというのが「我々の思い」です。
『いつでも誰でもどこでも医療グレードの迅速検査』という言葉には、そんな我々の思いが込められています。
2.シニアの医療課題とは
杉原代表:
日本の国民医療費は増大し続けていますが、その原因の一つが社会の超高齢化です。誰が悪いとかではなく、やっぱり歳を重ねるとどうしても体の調子は悪くなってしまう。これはもう生物として仕方がないことです。
ただ、少しでも健康な状態を長く続けていただく、あるいは、病気になった時にそれを迅速に見つけ出す。深刻な状態になる前に、素早く治してしまう、それが「我々が目指してる世界」です。 それが、シニアの医療課題の解決に繋がると考えています。
老人ホームなどの施設であったり、ご自宅で、病気でなくても定常的に検査ができる環境、気軽に「自分の健康状態を見える化」することができればと。
また、保険サービスなどでは、健康状態に応じて積立保険料率を変えてリスク細分を図るような動きもあります。自宅で健康状態を測定するという習慣が、医療だけではなく、保険や自治体等の社会サービスへの展開にも活用できると思います。
3.独自技術GLEIA®︎の役割
🎤 独自技術GLEIA®︎がどのように少子高齢化社会に対応するためのソリューションとなるのか教えてください。
杉原代表:
昭和の終わり頃には既に少子高齢化が課題になっていたと思いますが、それでもまだ、大家族でおじい様とおばあ様、そのお子様とお孫さんが同居するというご家庭も結構あったと記憶しています。現在はお子様がいないとか、独居という方が更に増えていると身近にも感じています。
繰り返しになりますが、こういった方々がご自身で簡単に自分の健康を見える化できるというところは非常に意味があるのかなと思います。
GLEIA®︎技術はいわば「測定の基本原理」なので、それを応用すれば様々な病気に対応する測定が可能になります。現在私たちは、いくつかの重要な病気に対する開発を進めているところです。また、測定したデータをスマホを通じて共有することもできます。遠く離れたお子様やご家族の方々とも健康データを共有しながら安心して暮らすことが可能です。
ただし、現時点では薬機法や医師法などの法律で、許される範囲に限りがあります。技術の信頼性や、安心・安全が何より重要なことは言うまでもありませんが、技術の進展に伴って、社会的な議論が進み、技術を十分に活かせる法的スキームが整備されることを期待しています。
4.POCT(point of care testing)の重要性
🎤 POCT(臨床現場即時検査)の重要性について、特に高齢化社会における役割をどのように考えていますか?
杉原代表:
臨床現場ということになると明確に体調不良がある方ということになります。
例えばですが、ご高齢者で、心臓系あるいは循環器系の疾患の疑いで「胸が詰まる」「ちょっと呼吸が苦しい」と症状を訴えてこられる方がいるとします。仮に心臓病や心不全の兆候だとすると本当にその場で適切な治療をしないと、その日の晩に重篤な状態になるというようなことも珍しくはありません。このようなリスクのある病気は、その場で迅速に診断をする、そして、適切な治療をすぐに受けていただくというのが、とても重要です。
POCT(臨床現場即時検査)は、高齢化社会において特に重要です。
臨床現場で即座に検査を行い、結果を迅速に得ることで、患者の待ち時間を短縮し、迅速な診断と治療を実現します。これにより、シニア層の健康状態を迅速に把握し、適切な医療を提供することが可能になります。
そして、シニアの医療課題で申し上げた「国民医療費増大」にも寄与すると考えます。POCT(臨床現場即時検査)での対処により未然に病気を防いだり、症状が軽いうちに適切な治療につなげることが、国民医療費の削減に繋がると考えています。
5.医療アクセスの向上
🎤 「いつでも・だれでも・どこでも医療グレードの迅速検査」を実現するための具体的な取り組みについてお聞かせください。
杉原代表:
元々、GLEIA®︎技術は、研究所で研究者が実行するような技術だったんです。
非常に優れた技術ですが、実施には高い専門性が必要でした。これを誰でも簡便な操作で使えるように、センサーの構造であったり、測定器を小型化することに注力して取り組んできました。
しかも、安価に実現することがとても重要でした。
おかげさまで、この1、2年で当社の認知度も徐々に上がり、当社の思いにご賛同いただける事業者様も増えてきました。とはいえ、まだまだ小さなスタートアップです。さらなる認知度の向上や販売促進など、課題は山積みです。現在は、医療以外の分野、例えばスポーツ関連やアニマルヘルスなどのヘルステック市場への参入も目指し、それぞれの分野を得意とする事業者様との協業を進めているところです。
6.社会課題解決への貢献
🎤 イムノセンスが掲げるビジョンを通じて、社会課題解決にどのように貢献していると感じていますか?
杉原代表:
まずは、社会課題として、国の一般会計歳出の約1割が医療費に充てられている 国民医療費の財源負担の内訳を見ると、約4割を公費(税金)、約5割を保険料、約1割をその他(患者負担など)により負担しています。
日本の国民皆保険制度の課題は、収入と支出のバランスが崩れ始めていることです。バランスが崩れた理由としては少子高齢化が大きいと言われています。少子化により、健康保険料を納める働き手が少なくなる一方で、高齢になるほど医療機関を利用する機会が増えるため、医療費給付が増えているのです。我々の技術や製品で、健康で元気なシニアを増やし、一億総活躍社会の実現に貢献していけたらと考えています。
7.イノベーションと未来展望
🎤 イムノセンスが目指す未来像についてお聞かせください
杉原代表:
まず、GLEIA®︎技術のさらなる進化を目指します。現在は一度に測れる病気は1種類のみ。例えば複数の病気を検査したい場合、病気ごとに測定する必要があります。当然これは、一つのセンサで複数の病気を同時に検査できる方が便利なわけです。そこで、多数の項目を一括して測れるような技術の開発と製品化を急いでいます。
また、病気を検査するためには、体液中のすごく微量な物質を測る必要があります。現時点のGLEIA®︎技術だと、血液 唾液 尿などに含まれる「1兆分の1g」ぐらいの成分が測れます。例えるなら、50メートルの競泳プールの水にザラメを一粒入れてかき混ぜて、その1滴を取ったら砂糖が入ってるというのが分かるぐらいの超高感度です。
これでも充分に凄いと思うんですが、病気によっては、さらに1桁感度が上がればもっと詳細に検査できるものもあります。なので、さらなる高感度化も目指していきます。
そんな先端技術でできた製品が、体温計や血圧計みたいに一家に1台お持ちいただけるという世の中になればと考えています。
例えば、薬局に行くと様々な健康状態が測定できるGLEIA®︎製品が健康サプリみたいな感じで購入できる。「メンタルの調子が悪い」「ちょっと疲れてる」みたいだから、この製品買って帰って自分がどんな状態か見てみようという様になれば面白いですね。また、そんな製品を行政で貸し出しできれば、金銭面で難しい方々にも利用できるようになりますね。働かれてる方であれば雇用する企業健保からの貸し出しができるというのもあると思います。そんな未来像を期待しています。
8.利用者の声とフィードバック
杉原代表:
我々は2025年の上半期にかけていくつかの製品を出していく予定です。まだ正式な販売はしていないので、お客様からのフィードバックもまだない状態です。
ただ、小規模なテストマーケティング等でお使いいただいた方々はいらっしゃいます。
「自分で自分の健康状態を見える化できるっていうのは、非常に面白い・興味がある」というポジティブなフィードバックをいただけることもあります。
一方で、「やっぱり面倒くさい」とか 、想定価格を伝えると「もうちょっとお安くならないかしら」という厳しいご意見をいただくこともあります。
自分で測定して、自分の健康状態を知るということ自体に対してネガティブなお話はありませんね。なので、価格・ユーザビリティという面で我々が頑張って推進していきたいです。
9.競争優位性
杉原代表:
一番の競争優位点は、大型の臨床検査機器と同じような能力が手のひらサイズで実現できたということです。そんな最先端製品を、現在の検査機器とは桁違いの安価で提供したいと考えています。
例えが適切かどうかわかりませんが、高級ディナー 1回分もしない?それぐらいでお買い上げいただける、これが、当社の考える優位性です。
当社の独自技術GLEIA®︎が、性能・価格という競争優位性に直結しているのです。
10.持続的な成長と展開
杉原代表:
今後、高齢化がさらに進むことでシニア層の病気、例えば「心不全」などの心疾患が拡大することは確実です。これが日本の医療を圧迫する一因になります。
そんな状況を避けるために、当社の製品を日常生活で使っていただきたい。特にシニアの方々が自ら測定することで、病気リスクを回避したり、早期に病気を発見できることが重要です。また、フレイル(健康な状態と要介護状態の中間の段階)や認知症の恐れのある方が、日々お家で健康維持を図っていただきながら安心して生活ができる助けになれれば嬉しいです。
当社のGLEIA®︎技術によって、一人ひとりのQOL(Quality of life)の向上や、社会的には医療制度の維持といった効果が期待できます。様々な疾患を検査でき、ご家庭やさまざまな施設、職場、救急救命の現場や災害現場など、あらゆるシーンで使っていただけるように、製品開発に取り組んでまいりたいと思ってます。
そして、ヘルステック関連事業者やシニア関連事業者様と協業できる機会や今回のようなインタビューでのプロモーション機会をいただくことができれば大変嬉しいです。
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