人生100年時代の生存戦略を読み解く「鎌倉殿の13人」考察
歴史上の人物たちから学ぶ、新たな視点と生きるためのヒント 9-前編
2022年のNHK大河ドラマは『鎌倉殿の13人』。脚本は、『新選組!』、『真田丸』に続き、三谷幸喜氏が務めます。
舞台となるのは、平安末期から鎌倉時代前期。北条義時を主人公に、源頼朝の挙兵から源平合戦、鎌倉幕府の樹立、御家人による13人の合議制、承久の乱まで激動の時代を描きます。朝廷と貴族が政治の実権を握っていた時代から、日本史上初めて、武家が政治を行う時代へと突入する、まさに歴史の大きな転換点とも言うべき時代。ここから中世という時代の幕が開く歴史のターニングポイントを、三谷氏らしいコミカルな演出も交えながら描く、予測不能のエンターテインメントです。
このコラムでは、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を深読みしつつ、ドラマの中に描かれる史実を取り出して解説します。そして、歴史上の人物たちの生き方や考え方から、現代に活用できる新たな視点を紹介していきたいと思います。
目 次
1. 武家の政治と文化の礎を築いた3代将軍・源実朝
源 頼家(金子 大地)が追放されたことにより、兄に代わって、3代鎌倉殿の座には源 実朝(柿澤 勇人)が就きます。建仁3(1203)年のこと、実朝は12歳でした。
頼家の代では、乳母として比企一族が力を持ったことで北条氏と比企氏との対立が深まり、結果として比企氏の乱(小御所合戦、実際には北条氏による比企一族の粛清)が起こりました。そこで、北条氏に近い千幡(=後の実朝・嶺岸 煌桜)が後継として選ばれたのです。頼家と実朝は、源 頼朝(大泉 洋)と政子(小池 栄子)の子であることに変わりはありません。しかし、千幡の乳母は政子の妹である実衣(宮澤 エマ)です。これなら北条氏が権力を掌握できると考えて決められた後継者でした。
このような経緯と背景、さらに悲劇的な最期から、源 実朝と言うと、北条氏の傀儡、お飾りの将軍でしかなく、政治よりも和歌や蹴鞠などの趣味に力を入れていた軟弱な人物というイメージで見られることがこれまでは多かったかもしれません。
しかし、実際には承元3(1209)年、18歳になった実朝は政所を開設するとともに親裁権を行使し始めており、将軍親裁を目指し、武家の政治と文化の礎を築いた将軍だったのではないかというのが近年の評価です(五味文彦氏『源実朝:歌と身体からの歴史学』ほか)。
さらに、『鎌倉殿の13人』の時代考証を務める坂井孝一氏によれば、承元3(1209)年以前から「実朝は自らの政治意識の高まりによって(中略)、様々な『仰せ』を下していた」(『源氏将軍断絶』)と言います。頼家がただの暗君ではなかったように、実朝もただの傀儡ではなく、執権や宿老たちの補佐を受けながら将軍親裁を行っていた将軍だったと考えられるのです。
2. 新しい実朝像を描く『鎌倉殿の13人』
また、この時代、和歌や蹴鞠というのは単なる文化や趣味ではなく、朝廷の人々と対等に交流するために、政治家として最低限身に付けておかねばならないツールでした。後鳥羽上皇(尾上 松也)は、和歌、蹴鞠、武芸などさまざまな才能に秀でた人物として知られます。後鳥羽上皇は、盛んに歌合を催し、建仁元(1201)年7月には勅撰集『新古今和歌集』を編纂するため、和歌所を再興します。
『鎌倉殿の13人』では、幼い頃から感受性の強かった実朝の才能を活かしてやりたいと考えた母の政子が実朝に歌を習わせたと描かれています。しかし、当時の時代背景を考えると、将軍として身に付けておかねばならない大事な教養のひとつが和歌でした。後鳥羽上皇を敬愛する実朝が、和歌を盛んに詠むようになったのも自然な流れであったと言えるでしょう。
そして、そんな近年の研究成果も取り入れながらも、三谷流の解釈を加え、「新しい実朝像」を意欲的に描こうとしているのが、『鎌倉殿の13人』なのです。
第41回「義盛、お前に罪はない」では、建暦3(1213)年5月に起きた和田合戦で見せた北条 義時(小栗 旬)の冷酷な姿勢に不信感を強めた実朝が、義時たち幕府の宿老とは距離を置く一方で、朝廷と距離を縮めて自らが目指す政治を行っていこうとする意思を見せ始めていました。実朝は、今後は「万事、西のお方にお考えを伺っていく」と、義時に告げます。「西のお方」とは、後鳥羽上皇のこと。そして、後鳥羽上皇に対して「山は裂け 海は浅(あ)せなむ 世なりとも 君にふた心 わがあらめやも」という和歌を贈るのです。
後鳥羽上皇に対して絶対的な忠誠を詠んだこの歌は、実朝の歌集である『金槐和歌集』の最後に「太上天皇の御書を下し預りし時の歌」という詞書とともに収められています(雑・663番)。
9-後編 に続く
並木由紀(ライター、小説家)
大学院では平安時代の文学や歴史、文化を中心に研究。別名義で『平安時代にタイムスリップしたら紫式部になってしまったようです』、『凰姫演義』シリーズ(共にKADOKAWA)など歴史を題材とした小説を手がける。
2022年NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』