人生100年時代の生存戦略を読み解く「鎌倉殿の13人」考察
歴史上の人物たちから学ぶ、新たな視点と生きるためのヒント 1-前編
2022年のNHK大河ドラマは『鎌倉殿の13人』。脚本は、『新選組!』、『真田丸』に続き、三谷幸喜氏が務めます。
舞台となるのは、平安末期から鎌倉時代前期。北条義時を主人公に、源頼朝の挙兵から源平合戦、鎌倉幕府の樹立、御家人による13人の合議制、承久の乱まで激動の時代を描きます。朝廷と貴族が政治の実権を握っていた時代から、日本史上初めて、武家が政治を行う時代へと突入する、まさに歴史の大きな転換点とも言うべき時代。ここから中世という時代の幕が開く歴史のターニングポイントを、三谷氏らしいコミカルな演出も交えながら描く、予測不能のエンターテインメントです。
このコラムでは、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を深読みしつつ、ドラマの中に描かれる史実を取り出して解説します。そして、歴史上の人物たちの生き方や考え方から、現代に活用できる新たな視点を紹介していきたいと思います。
目 次
- 武家政権の樹立という歴史の大きな転換点ながらあまり映像化されてこなかった鎌倉時代
- ただのコントと思いきや、三谷氏の創作に見えるところが実は史実という面白さ
- 「そなただけが頼り」と誰にでも言ってしまう頼朝は創作か?史実か?
1. 武家政権の樹立という歴史の大きな転換点ながらあまり映像化されてこなかった鎌倉時代
平安末期から鎌倉時代前期は、日本史上、重要な時代ながらも、実はあまりドラマや映画の題材に選ばれてこなかった時代でもあります。織田信長・豊臣秀吉・徳川家康の三英傑が活躍する戦国時代の方が、ドラマの舞台としてはおなじみかもしれません。
NHKの大河ドラマでは、『草燃える』(1979年1〜12月)と『義経』(2005年1〜12月)が、この時代を舞台に源氏側を主軸として描いた作品になります。また、平家を描いた大河ドラマとしては、『新・平家物語』(1972年1〜12月)、『平清盛』(2012年1〜12月)がありました。
『草燃える』でも、北条政子を中心に北条氏や御家人、13人の合議制が描かれました。源平合戦や承久の乱のような派手な要素ではなく、一見地味にも見える坂東の武士たちのパワーゲームにスポットを当てて描こうとする試みは、今回の大河ドラマが初めてかもしれません。
『鎌倉殿の13人』は、三谷氏が脚本を務めていることもあって、彼らしいコントのような場面が多いのも特徴のひとつです。一般的には、あまりなじみのない人物が多く登場する大河ドラマだけに、「こんなコントみたいなシーンは、きっと三谷氏の創作に違いない」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、ただのコントのような場面にも、実は巧みに史実が活用されているのです。
2. ただのコントと思いきや、三谷氏の創作に見えるところが実は史実という面白さ
三谷氏が原作・監督を務めた『清洲会議』も、笑えるシーンが満載のコミカルな作品でしたが、その登場人物たちの人物像は史実に基づいたものでした。頑張れば頑張るほど空回りして、後継者にふさわしくないバカッぷりを露呈してしまう織田信雄は、大うつけ者として数々のエピソードが歴史上に残されている人物です。
三谷氏が脚本を手がけた大河ドラマ『真田丸』では、真田昌幸の食わせ物っぷりが印象的でした。武田、織田、上杉、北条、徳川と、味方する相手を次々と変えていくその姿は、視聴者としては笑いどころのひとつではありますが、当事者として振り回される息子たちにとってはたまったものではないでしょう。
とはいえ、一見、行き当たりばったりに見えるこの行動も当時の小大名としては生き残る術のひとつです。「表裏比興の者」と呼ばれた真田昌幸を史実の通りに描くと、まさにあの『真田丸』のような人物になるのです。
3. 「そなただけが頼り」と誰にでも言ってしまう頼朝は創作か?史実か?
<源頼朝像>
もちろん、今回の『鎌倉殿の13人』でも、一見コントにしか見えないシーンでありながら、三谷氏の創作ではなく、れっきとした史実という場面があります。
第4回「矢のゆくえ」では、いよいよ源頼朝(大泉洋)が挙兵しますが、平家全盛の世の中ゆえ、なかなか味方は集まりません。兵が集まらずに難渋する中、北条義時(小栗旬)は頼朝に対し、坂東の武士たちへ直々に呼びかけてほしいと頼みます。
この北条義時の提案については、『吾妻鏡』にも記録がないため、三谷氏の創作かもしれませんが、その後のコントにしか見えない源頼朝の豹変ぶりが実は史実なのです。
義時の前では挙兵に加わることを渋っていた土肥実平(阿南健治)のもとに、頼朝は「よう来てくれた」と駆け寄ると手を握り、「これから言うこと誰にも漏らすな、よいか。今まで黙っておったが、わしが一番頼りにしているのは実はおまえなのだ。お前の武勇は耳に入っておる。力を貸してくれ! お前なしで、どうしてわしが戦に勝てる? どうか一緒に戦ってくれ」と感情を込めて語りかけます。頼朝にそう言われてしまったら、言われた方は感激し「どこまでもお供します」と平伏するしかありません。
そして、土肥実平にそう言ったかと思うと、その舌の根の乾かぬうちに、岡崎義実(たかお鷹)にも、「これから言うこと誰にも漏らすな、よいか。今まで黙っておったが、わしが一番頼りにしているのは実はおまえなのだ」と、先ほどとまったく同じ言葉をかけて、強く抱きしめます。
直前まで、「え、岡崎の……何?」と名もうろ覚えで、義時に確認していたのにも関わらず、まるで旧知の家人を前にしたかのような言葉をかけるのです。
1-後編 に続く
並木由紀(ライター、小説家)
大学院では平安時代の文学や歴史、文化を中心に研究。別名義で『平安時代にタイムスリップしたら紫式部になってしまったようです』、『凰姫演義』シリーズ(共にKADOKAWA)など歴史を題材とした小説を手がける。
2022年NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』