人生100年時代の生存戦略を読み解く「鎌倉殿の13人」考察 | シニアド

人生100年時代の生存戦略を読み解く「鎌倉殿の13人」考察
新連載企画 投稿日: 更新日:

人生100年時代の生存戦略を読み解く「鎌倉殿の13人」考察

歴史上の人物たちから学ぶ、新たな視点と生きるためのヒント 8-後編

【8-前編】はこちらから

2022年のNHK大河ドラマは『鎌倉殿の13人』。脚本は、『新選組!』、『真田丸』に続き、三谷幸喜氏が務めます。

舞台となるのは、平安末期から鎌倉時代前期。北条義時を主人公に、源頼朝の挙兵から源平合戦、鎌倉幕府の樹立、御家人による13人の合議制、承久の乱まで激動の時代を描きます。朝廷と貴族が政治の実権を握っていた時代から、日本史上初めて、武家が政治を行う時代へと突入する、まさに歴史の大きな転換点とも言うべき時代。ここから中世という時代の幕が開く歴史のターニングポイントを、三谷氏らしいコミカルな演出も交えながら描く、予測不能のエンターテインメントです。

このコラムでは、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を深読みしつつ、ドラマの中に描かれる史実を取り出して解説します。そして、歴史上の人物たちの生き方や考え方から、現代に活用できる新たな視点を紹介していきたいと思います。

目 次

  1. 「比企氏の乱」は比企能員の叛逆だったのか?
  2. 頼家の苦悩は『リチャード二世』の哀しみ

4. 「比企氏の乱」は比企能員の叛逆だったのか?

頼家の運命を大きく変えることとなったのは、病でした。それも、ほぼ助かることがないと思われるような容態で、御家人たちは頼家の後継者を急遽決めなければならないという状況に陥りました。そんな中で、比企と北条の対立が激化します。

比企能員は、頼家の乳母夫。娘のせつ(山谷 花純)が頼家の第一子・一幡(相澤 壮太)を産んでいますから、当然、外祖父として一幡を次の鎌倉殿にしたいと考えます。一方で、北条側としては北条一族の実衣(宮澤 エマ)が乳母として育てた頼家の弟・千幡(=後の実朝・嶺岸 煌桜)を次の鎌倉殿にと考えます。

この対立が、比企氏の乱のきっかけとなり、この政変の勝者となった時政が幕府内の権力を掌握することとなるのです。 

この政変に関して、『吾妻鏡』は北条側に都合の悪い事実は曲筆した信頼のできない記録となっており、朝廷側の人間であり中立の立場にある慈円が記した『愚管抄』の方が史実に近いのではないかという指摘は、1960年代からなされています(上横手雅敬氏、石井進氏など)。

『愚管抄』では、危篤に陥った頼家が出家し一幡に家督を譲ろうとした直後、時政の指示で能員が謀殺されたとあります。一方『吾妻鏡』建仁3(1203)年8月27日条では、関東を一幡に、関西を千幡にと分割して譲与する措置が取られたものの、一幡の外祖父である能員が怨みに思い叛逆を企てたと記されています(「御外祖比企判官能員、潜かに舎弟に譲補する事を憤り怨み、外戚の権威に募り独歩の志を挿むの間、叛逆を企て、千幡君并びに彼の外家已下を謀り奉らんと擬すと云々」)。

ドラマでは第31回「諦めの悪い男」で、比企氏の乱が起こりました。『吾妻鏡』の分割案を採用しながらも、義時の策略によって比企氏がはめられたという描き方をしています。頼朝のもっとも近くで、脅威になりそうな人間はあらかじめ排除するというやり方を学んできた義時が、生前の頼朝であればそうしたであろうというように、北条の敵として立ちはだかる比企氏を徹底的に滅ぼすのでした。

義時は、一幡と千幡に分割して譲与する案を提示しますが、それはこの案を能員が承服しないものと最初から睨んでのこと。能員を怒らせるための策略でもありました。能員は、「九州は千幡様、そのほかは一幡様で」という代替案を時政に提示しますが、時政はそれを一度は断ってみせます。しかし、その翌日になって能員の案を受け入れると和議を申し入れ、能員を館に招き入れると騙し討ちにし、比企氏を滅ぼしてしまうのです。頼朝の死と共に、そのダークな為政者というキャラクターを引き継いだ義時には、謀殺される上総 広常(佐藤 浩市)を見つめ涙していたかつての小四郎の面影はもうありません。幼い一幡を殺すことに躊躇し密かにかくまってしまう泰時が、若かりし頃のまだ青臭かった小四郎の役割を引き継いだのだと視聴者は理解します。

5. 頼家の苦悩は『リチャード二世』の哀しみ

ここまでの展開も頼家の目線に立って見るなら、かなりの悲劇ではあります。しかし、さらなる悲劇は、この後、頼家が奇跡的に息を吹き返してしまうということでしょう。

目覚めて見れば、愛妻も、跡を継がせようと思った愛息も、後見だった外祖父もこの世におらず、一族もろとも滅ぼされています。しかもその実行犯は、実の母の実家です。

北条家の人々も、まさか頼家が息を吹き返すとは思っていなかったからこそ起こした謀だったとは言え、これほどの悲劇があるでしょうか。

今回、シェイクスピアからもインスピレーションを得たという脚本家の三谷氏は、そのインタビューの中で「頼家の苦悩は『リチャード二世』に出てくる若き王の哀しみと似ている」と語っています。

シェイクスピアの『リチャード二世』は、わずか10歳で王位を継承し貴族たちの補佐を受けて統治するものの、長じてからクーデターにより王位を奪われ、幽閉先で暗殺されます。

王位簒奪者である後のヘンリー四世に対し、「王冠は君のものだ、だが悲しみはまだ私のものだ」と語るリチャード二世は、王として生まれ、王として育ち、その冠と笏を奪われて失意の中で命を落とします。

鎌倉殿を継ぐべき者として生まれ、立派な将軍となるべく努力したものの、鎌倉殿の座を弟・千幡に奪われ、実権は北条家(この時点では時政、後に義時)に奪われてしまう頼家。義時から送られた刺客と勇猛果敢に戦い、最後まで抗いながらも命を奪われ、哀しみを抱いたまま死出の旅へと向かいます。そんな悲哀に満ちた人物として描かれた二代目鎌倉殿でした。

連載【目次一覧へ】

並木由紀(ライター、小説家) 

https://note.com/yuki_nami

大学院では平安時代の文学や歴史、文化を中心に研究。別名義で『平安時代にタイムスリップしたら紫式部になってしまったようです』、『凰姫演義』シリーズ(共にKADOKAWA)など歴史を題材とした小説を手がける。

2022年NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』

鎌倉殿の13人
(C)NHK
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