人生100年時代の生存戦略を読み解く「鎌倉殿の13人」考察 | シニアド

人生100年時代の生存戦略を読み解く「鎌倉殿の13人」考察
新連載企画 投稿日: 更新日:

人生100年時代の生存戦略を読み解く「鎌倉殿の13人」考察

歴史上の人物たちから学ぶ、新たな視点と生きるためのヒント 2-前編

2022年のNHK大河ドラマは『鎌倉殿の13人』。脚本は、『新選組!』、『真田丸』に続き、三谷幸喜氏が務めます。

舞台となるのは、平安末期から鎌倉時代前期。北条義時を主人公に、源頼朝の挙兵から源平合戦、鎌倉幕府の樹立、御家人による13人の合議制、承久の乱まで激動の時代を描きます。朝廷と貴族が政治の実権を握っていた時代から、日本史上初めて、武家が政治を行う時代へと突入する、まさに歴史の大きな転換点とも言うべき時代。ここから中世という時代の幕が開く歴史のターニングポイントを、三谷氏らしいコミカルな演出も交えながら描く、予測不能のエンターテインメントです。

このコラムでは、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を深読みしつつ、ドラマの中に描かれる史実を取り出して解説します。そして、歴史上の人物たちの生き方や考え方から、現代に活用できる新たな視点を紹介していきたいと思います。

目 次

  1. 法皇様コント」? 映画『ステキな金縛り』を彷彿とさせる後白河法皇の生霊が登場
  2. 『源氏物語』にも描かれていた生霊。ふとしたことで魂が身体から抜け出てしまうのは平安時代の常識?
  3. 思い悩むと魂は身体から抜け出るものと考えられていた。「平安末期はそういう時代である」

1. 「法皇様コント」? 映画『ステキな金縛り』を彷彿とさせる後白河法皇の生霊が登場

後白河碑

源頼朝(大泉洋)の夢枕に何度も現れては挙兵を促す後白河法皇(西田敏行)が、「もはやネタ」、「佐殿の背後霊」、「物の怪に取り憑かれているとしか思えないレベル」などとネット上で話題になっています。

生霊だけにまさに神出鬼没。そのコミカルなシーンは、「法皇様コント」とも呼ばれ、実体ではなく生霊としての登場を心待ちにしているファンも多いようです。

初めて後白河法皇が夢枕に立ったのは、第3回「挙兵は慎重に」でした。深夜、眠っている頼朝の枕元に現れると、「清盛の首をとれ」と後白河法皇は頼朝に命じます。さらに、「頼む、なあ、なあ、なあ」と言いながら頼朝を揺さぶると、後白河法皇の動きに合わせて頼朝の身体も左右にグラグラと揺れてしまいます。頼朝が「揺らさないで~!」と叫ぶという、コントのような展開が繰り広げられました。

法皇と未来の征夷大将軍のやりとりとは思えぬあまりにもコミカルな展開と、西田敏行さんが霊体を演じているという点から、三谷氏が過去に監督した映画『ステキな金縛り』を思い出した視聴者も多かったようです。

『ステキな金縛り』は、2011年に公開された、落武者の幽霊が裁判の証人になるという奇想天外な法廷サスペンスコメディです。この時、落武者幽霊・更科六兵衛を演じたのが、『鎌倉殿の13人』で後白河法皇を演じる西田敏行さんでした。

さらに、第4回以降でも、生霊・後白河法皇と頼朝との夢枕コントは続きます。

第4回「矢のゆくえ」では、「法皇さまだよ~」と言って現れると、頼朝に馬乗りになった状態で、「挙兵の方はどうなっておる?」と尋ねます。「なかなか兵が集まらんのです」と言い訳をする頼朝に対し、後白河法皇は「おぬししかおらんのだ」、「しかとやれ、しかとやれ」と言って、軽く頬を叩く仕草をします。すると、後白河法皇の手の動きに合わせて、頼朝の顔も叩かれたように左右に揺れるのでした。

第5回「兄との約束」では、石橋山の合戦で敗走した後、窟に隠れていた頼朝のもとに後白河法皇が現れます。「北条を信じた私が愚かでした」とこぼす頼朝(もはや、頼朝の受け答えも生霊を相手にしているとは思えぬ自然さです)に、後白河法皇は「お前には神仏がついているのだから、強気で行けよ。お前しかおらんのだから」と檄を飛ばします。

第6回「悪い知らせ」では、安房へと海を渡る場面で後白河法皇が現れました。夢枕ではなく、起きている頼朝のもとに現れたのです。舟に入ってしまった水を手桶によって掻き出していた頼朝ですが、その桶の水に後白河法皇の姿が映っていたのです。

さらに、同じく第6回の終盤にも、再度、後白河法皇が登場します。房総半島で力を持つ武士である千葉常胤(岡本信人)と上総広常(佐藤浩市)を味方に引き入れることを計画し、皆で再起をはかろうと話し合う席に、なんと後白河法皇が実体化して現れるのです。もはや「夢枕に立つ」といったレベルを超えています。「戦はまだ始まったばかりじゃ」と皆に活を入れる頼朝の前に、笑顔の後白河法皇が立っていたのでした。

後白河法皇の生霊は、『ステキな金縛り』という過去の作品に対する、三谷氏自身によるオマージュ的意味合いもあるでしょうし、作品を見続けているファンへのサービスといった側面もあるかもしれません。

しかし、同時にこの生霊や夢枕というキーワードは、平安時代末期に生きる人々の考え方をリアルに再現する装置ともなっており、私たち現代人に過去の時代の常識について教えてくれる仕掛けともなっているのです。

2. 『源氏物語』にも描かれていた生霊。ふとしたことで魂が身体から抜け出てしまうのは平安時代の常識?

平安時代

私たち現代人の多くは、幽霊や生霊は現実には存在しないものと考えていることと思います。そもそも存在しないものという常識が前提にあるため、後白河法皇の生霊も『ステキな金縛り』も笑いを生み出すモチーフになるのです。しかし、平安時代の人々は幽霊も生霊も、現実に存在するものと信じていました。肉体とは別に「魂」が存在すると考えています。それゆえ、生きている人間が夢枕に立つことも可能なのです。

例えば、平安時代に書かれた『源氏物語』の「葵巻」では、六条御息所という登場人物が生霊となる様子が描かれています。光源氏とのままならぬ関係に思い悩んでいた六条御息所は、源氏の姿を一目見ようと葵祭にこっそり出掛けますが、源氏の正妻である葵の上一行と出くわし、権勢を笠に着た従者たちから侮辱を受けます。

この一件でプライドを傷つけられた六条御息所は、ついには物の怪となって葵の上に取り憑いてしまうのです。生霊として取り憑いた六条御息所は、葵の上の口を借り、「物思ふ人のたましひはげにあくがるる物になむありける(訳:思い悩む人の魂というのは、このように肉体から離れ出てしまうものだったのですね)」と源氏に語りかけます。

これが、平安時代における一般的な魂の捉え方でした。このように、いとも簡単に魂は身体から抜けだし取り憑いてしまうものだと考えられていたのです。

3. 思い悩むと魂は身体から抜け出るものと考えられていた。「平安末期はそういう時代である」

『伊勢物語』110段にも「思ひあまり出でにし魂のあるならむ夜深く見えば魂結びせよ」という歌が登場します。こちらは、恨みつらみが原因ではなく相手を恋慕う思いが強いあまり魂が抜け出てしまったという歌です。

和泉式部の『後拾遺和歌集』に撰ばれた和歌「もの思へば沢のほたるもわが身よりあくがれ出づるたまかとぞ見る」(巻二十・雑六・神祇・1162)も、身体から抜け出た魂について詠んだ歌で、沢に飛ぶ無数の蛍たちを身体から抜け出た魂に見立てて詠んだものです。この歌の詞書(歌が書かれた状況説明)によれば、「男に忘られて侍ける頃」に詠んだ歌ということですので、失恋が原因で、いわゆる「心ここにあらず」という状態にあったのでしょう。

現代であれば、「思い悩むあまり仕事や勉強に身が入らない」とでも言うべきところでしょうが、こういった精神状態のことを、平安時代の人たちは、魂が身体から抜け出てしまっているのだと考えました。

2-後編 に続く

並木由紀(ライター、小説家) 

https://note.com/yuki_nami

大学院では平安時代の文学や歴史、文化を中心に研究。別名義で『平安時代にタイムスリップしたら紫式部になってしまったようです』、『凰姫演義』シリーズ(共にKADOKAWA)など歴史を題材とした小説を手がける。

2022年NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』

(C)NHK
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